なぜ「もの忘れ」は起こるの?
その原因を探っていきます。
とくに高齢者に、よくみられる「もの忘れ」です。年を重ねるとともに、からだだけではなく、脳も老化していきます。もちろん個人差は大きいのですが、脳の神経細胞の機能の低下、脳の血流の低下といった加齢変化(老化)などが、記憶力の低下につながります。
つよいストレスは「もの忘れ」の誘因となります。自律神経やホルモンバランスの乱れなどが、記憶のはたらきに悪影響を与えます。
つよいストレスを受けると脳内でコルチゾールというホルモンの分泌量が増加し(このホルモンはストレスホルモンとよばれます)、記憶にかかわる脳の「海馬」という部位に作用し、記憶力の低下につながるとされています。
夜、眠っているあいだに、脳では記憶の定着が行われているようです。とくにノンレム睡眠(大脳を休ませる睡眠)のとき、海馬から大脳皮質へ情報が送られ、そこで長期記憶として定着されると考えられています。
睡眠不足は記憶に悪影響を与え、「もの忘れ」などの原因になりかねません。
また、睡眠時に脳は、アルツハイマー病の原因のひとつとなるアミロイドβなどの老廃物の除去をしています。眠りが足りないと除去しきれなかった老廃物がたまり、アルツハイマー病の危険度が高まります。
認知症は「さまざまな病気により、認知機能が持続的に低下して日常生活や社会生活に支障をきたすようになった状態」。認知機能が損なわれると、日々の暮らしに困難が生じてきます。認知症の症状は、「もの忘れ」だけではなく、時間や場所がわからなくなったり、注意力や判断力が衰えるなど、さまざまな症状が現れます。
うつ病は、「ふさいだ気分」や「意欲の減退」などが続いてしまう状態で、集中力や注意力、判断力の低下を招き、もの忘れも目立ちます。
それは脳の老化ではなく、脳内の情報伝達を担っている神経伝達物質(セロトニンやアドレナリンなど)のはたらきが弱まること(作用不足)で生じる、一時的な脳の機能低下です。
ビタミンBなどが不足すると、脳の記憶にかかわるはたらきが低下し、「もの忘れ」を招くことがあります。
甲状腺機能低下症では、よく「もの忘れ」の症状がみられます。また、糖尿病や高血圧、脂質異常症といった生活習慣病が、「もの忘れ」の危険因子になることもあるのです。
記憶に深くかかわる海馬では、生涯にわたって新しい神経細胞が生み出されていますが、神経新生も加齢にともなって低下していきます。つよいストレスや病気などが加わると、さらに減退してしまいます。「もの忘れ」を遠ざけるためには、からだをよく動かし、頭をつかい、そしてぐっすり眠ることがとても大切なのです。